2018.10.05
相続により取得した非上場株式を譲渡した場合の特例
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生前相続対策
納税資金対策

①自己株式の譲渡の取扱い
個人が発行会社に対しその会社の株式を譲渡した場合、譲渡価額のうち、譲渡株式数に対応する資本金等の額に対しては譲渡所得が、譲渡株式数に対応する資本金等の額を超える額は利益積立金額の払い戻し、すなわち配当収入とみなされます(みなし配当)。
譲渡所得は分離課税になりますので、譲渡益に対し20.315%の課税がなされるのに対し、みなし配当は総合課税になりますので、最高で55.945%の税率で課税されます。
税率差からわかるように、通常はみなし配当よりも譲渡所得課税された方が有利になります。
②相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の特例(みなし配当の特例)
(1)特例の内容
①で見たように、個人が発行会社にその株式を譲渡した場合は、譲渡所得とみなし配当が生じますが、相続により取得した株式をその発行会社へ譲渡した場合には、例外として、みなし配当課税の特例が設けられています。
適用要件は以下の通りです。
要件1.相続又は遺贈により非上場株式を取得した個人で、納付すべき相続税額があること。
要件2.相続の開始があったことを知った日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までにその非上場株式を発行会社に譲渡すること。
要件3.非上場株式を譲渡した個人が、譲渡の時までに「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」の譲渡人用部分に必要項目を記入の上発行会社に提出すること。
要件4.「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を受領した発行会社が「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」の発行会社用部分に必要項目を記入の上、自己株式を取得した年の翌年1月31日までに所轄税務署に提出すること。
(2)発行会社の税務処理
この特例の適用を受ける場合、売主である個人株主には配当課税は行われませんが、買主である発行会社においては特別な税務処理を行う必要はなく、通常の自己株式の取得として資本金等の額及び利益積立金額の両方を減少させます。譲渡対価を交付する際の源泉徴収も不要です。
(3)制度の趣旨
相続税は換金が容易でない非上場株式も所定の評価に基づき評価を行った上で相続税が課されます。内部留保が大きな会社になると相当多額の納税が予想されますので、その納税のために非上場株式を譲渡することがありますが、その譲渡先が同族株主以外の場合、経営権の分散が起こり事業承継の観点から問題が生じます。経営権の問題を解消するために発行会社に買い取ってもらうことが理想ですが、発行会社に買い取ってもらうと通常はみなし配当課税が起こります。
みなし配当課税が行われた結果、所得税の税負担が非常に高額になりますので、その負担を緩和するためにみなし配当の特例制度が設けられています。
③相続税額の取得費加算特例
相続又は遺贈により取得した株式を、相続の開始があったことを知った日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合、(1)のみなし配当の特例以外に、譲渡所得の計算上、以下の算式により計算した金額を株式の取得費に加算する特例も適用できます。
この特例の適用を受けるには、譲渡日の属する年分の確定申告書に適用を受ける旨の記載をし、譲渡所得の金額の計算に関する明細書、相続税の申告書の控え等を添付して申告する必要があります。
(1)譲渡所得の計算上取得費に加算される金額
(2)特例が設けられた趣旨
相続税は金銭一時納付が原則であり、換金が困難な非上場株式や不動産も課税対象となります。
現金で一括納付できればいいのですが、中には相続税の納税のために相続財産を譲渡する納税者もおられ、相続財産を譲渡した場合は相続税の納付と譲渡所得の納付が生じ多額の税負担が予想されます。
その譲渡所得の税負担を緩和するために設けられた制度が相続税額の取得費加算の特例です。
みなし配当の特例は相続が起こった場合にしか適用できない特例であり、同族会社の内部留保を少ない税負担で引き出す唯一の機会です。
また、結果的に相続税を会社の資金で納税すると考えることもできますので、株価が高額になっている非上場株式の同族オーナーは必ず制度の適用を検討すべきと思われます。