2020.09.02

配偶者居住権の課税関係

category

相続税

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配偶者居住権の課税関係は「入口(配偶者居住権設定時)」「出口(配偶者居住権の消滅時)」に大別されますので、それぞれの課税関係を整理します。

①入口時点の課税関係
(1)相続税の課税対象財産
配偶者居住権設定時には配偶者は家屋に関する配偶者居住権とその家屋の存する土地の敷地利用権を取得し、他の相続人等は家屋と土地の所有権を相続します。
この場合において、家屋に係る配偶者居住権もその家屋の存する土地の敷地利用権も相続税の課税対象になり、それぞれ相続税法に規定する評価方法で評価します。

(2)小規模宅地の特例の適用
入口時点での小規模宅地の特例(特定居住用宅地)の適用に関しては、配偶者、相続人共に適用可能性があります。
配偶者は、配偶者居住権を設定するには相続開始時において被相続人が所有する家屋に居住している必要があるため、相続税の申告期限内に遺産分割協議が成立している等の要件を満たす場合は、その配偶者利用権が設定された敷地利用権に関しては特定居住用宅地として小規模宅地の特例の対象になる可能性が高くなります。
一方の土地の所有権を相続する相続人も、相続開始直前において被相続人と同居し、引き続きその家屋に居住し続ける場合は特定居住用宅地として小規模宅地の特例の適用があります。しかし、相続開始直前において被相続人と別居している相続人の場合は、いわゆる家なき子特例の適用要件から外れるために適用がありません。
特定居住用宅地として小規模宅地の特例を適用する場合は、適用面積が330㎡までとされていますので、配偶者居住権が設定されている家屋の存する土地の敷地利用権面積と他の相続人が相続するいわゆる底地部分の面積をそれぞれ計算する必要があります。
ただし、それぞれの面積を直接計算することは不可能ですので、簡便的に以下の算式で計算することとなります。
1.配偶者が取得する部分の面積
土地の面積×土地の敷地利用権の評価額/(土地の敷地利用権の評価額+底地部分の評価額)
2.相続人が相続する部分の面積
土地の地積×土地の底地部分の評価額/(土地の敷地利用権の評価額+底地部分の評価額)

このように計算しますが、配偶者、相続人共に特定居住用宅地の特例が適用できる場合はどちらが優先的に小規模宅地の特例を適用するか小規模宅地等についての課税価格の計算明細書で明示した上でその適用順位に同意する旨を計算明細書で明記する必要がありますので注意が必要です。
例えば、両者小規模宅地の特例を適用できるケースとして、土地の面積が400㎡で、そのうち配偶者が取得する部分の面積が100㎡、相続人が取得する部分の面積が300㎡と算定された場合は、相続人が300㎡適用し、配偶者は30㎡適用すれば相続人の相続税が少なくなります。小規模宅地の特例による1㎡当たり減額価額は配偶者居住権が存する敷地利用権も所有権も同額で、両者合計で330㎡まで小規模宅地の特例を適用しますので、相続税の総額は変わりませんが、配偶者が相続する分に関しては配偶者税額軽減が適用され優遇されていますので、相続人の相続税負担が少なくなるように調整することがセオリーと言えます。

②出口時点の課税関係
(1)配偶者が死亡した場合又は配偶者が存命中に配偶者居住権の存続期間が満了した場合
この場合はそれらの時点で配偶者居住権が消滅することに伴い、家屋の所有者が使用収益を上げることができるようになります。
税務上の考え方は、この時点で家屋の所有者が何らかの財産を取得したと考えるのではなく、あくまで配偶者居住権が消滅しただけと考え、何らの課税関係も生じません。

このような取扱いになった理由としては、配偶者居住権はその存続期間中に価値が逓減し続け、これらの事由が生じた時点でその価値がゼロになったと考えることとしたためと思われます。
従って、配偶者居住権が設定された土地と家屋の所有者は入口時点では配偶者居住権を控除した評価額で財産を取得でき、配偶者が死亡した時点でも消滅した配偶者居住権部分は課税されない扱いとなります。

(2)配偶者居住権の合意解除があった場合
配偶者居住権は、当初設定した存続期間をその途中で変更することはできませんが、所有者と配偶者の合意があれば配偶者居住権を放棄することも可能です。この場合も配偶者居住権は消滅しますが、この場合の配偶者居住権は存続期間満了により逓減して消滅するのではなく一時に消滅することとなります。
家屋の所有者からすると配偶者居住権の存続期間満了前に家屋を使用収益する権利を得ることとなりますが、税務上はこれを利益と考え、家屋の所有者に贈与税を課すこととしています。配偶者が家屋の用法遵守義務に違反することで所有者が配偶者居住権を消滅させる場合も同様の取り扱いがなされます。

③配偶者居住権を活用した相続税対策
上記でご説明した通り、配偶者居住権を設定すると配偶者が所有する配偶者居住権部分と所有者が有する所有権部分に評価対象財産が分離されます(一次相続)。
次に、配偶者が死亡する等で配偶者居住権の存続期間が満了した場合は配偶者居住権が消滅し、家屋と土地の所有者は無税で使用収益を得る権利が得られます。(二次相続)
最終的には一次相続で所有権を相続する相続人に財産が移転することになりますが、同じ財産でも配偶者居住権を設定することで一次相続と二次相続を通算した課税対象を少なくすることができますので、相続税だけのことを考えると積極的に配偶者居住権を設定すべきと思われます。
このように、相続税だけのことを考えると、配偶者居住権の設定は有効な相続税対策と言えますが、配偶者居住権は譲渡することができませんので、将来の配偶者の生活資金が不安な場合は、よく検討した上で配偶者居住権を設定するか判断すべきと言えます。

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